多発性骨髄腫と生きる

患者さん・ご家族のみなさまへ

多発性骨髄腫の治療を知る・選ぶ

【編集協力】千葉大学医学部附属病院 血液内科 科長・診療教授
 堺田 惠美子 先生

治療の目的進め方

多発性骨髄腫は完全に治すことが難しい病気とされていますが、最近、さまざまな治療薬が使われるようになり、治療によって高い効果を得ることも可能となってきました。
多発性骨髄腫の治療と併行して、症状をやわらげる治療も行います。
できるだけ普段の生活に近い毎日を長く続けられることを目指します。
特に高齢の患者さんも多いため、治療は体への負担や患者さんのお気持ち、希望を考慮し、相談しながら進められます。

治療の目的

治療は以下のような目的で行われます1)
骨髄腫の病状を改善し、症状をやわらげる
快適な日常生活をできるだけ長く続ける
健康状態を保ち、生活の質(QOL)を支える
多発性骨髄腫患者さんと、患者さんを囲むご家族

治療の進め方 ―
3つのフェーズの理解

多発性骨髄腫の治療は、病気の進行や状態に応じて「初期治療 → 寛解(かんかい)期 → 再発治療」と段階的に進みます。
初期治療(一次治療)
多発性骨髄腫治療が必要と判断された際に、まず行われるのが初期治療です。
複数のお薬を組み合わせて骨髄腫細胞をしっかり減らすことを目的とし、この治療で症状が落ち着いた状態を「寛解」といいます。
寛解期(病気が落ち着いた状態)
寛解が得られたあとは、良好な治療効果を得るために、お薬による治療で骨髄腫細胞をなくすことを目指す「地固め療法」が選択されることがあります。
さらに、寛解の状態や地固め療法で得られた良い状態をできるだけ長く保つために「維持療法」が行われます。
患者さんの体調や希望、治療による副作用によってはしばらく治療を休み、「経過観察」として定期的に様子をみる場合もあります。
再発治療(二次治療以降)
病気が再び進行したときは、再発に対する治療が始まります(これを「二次治療」と呼びます)。
多発性骨髄腫では、寛解と再発を繰り返しながら治療が続いていくことが多く、体の状態や過去の治療の経過や効果に応じて、治療の内容がその都度見直されます。

治療の選択肢 ―
移植ができるかどうか

治療方針を決める上で重要なのが、「自家末梢血幹細胞移植(じかまっしょうけつかんさいぼういしょく)」ができるかどうかです。
ご自身の「血液の種」である造血幹細胞をあらかじめ採取して保存しておき、「前処置(ぜんしょち)」と呼ばれる大量抗がん薬治療のあとに体内へ戻し、造血機能を回復する治療です。
副作用が強く出ることもあるため、適応は慎重に判断されます。
骨髄移植を受けている多発性骨髄腫患者さん

移植治療の一般的な適応は、年齢(目安として65歳未満、施設によっては70歳程度まで)だけでなく、体力や臓器の機能なども含めて総合的に判断されます。
移植ができる場合・できない場合で治療の流れが異なりますが、どちらにしても、患者さんの状態に合った最適な治療が選ばれます。
骨髄移植を受けている多発性骨髄腫患者さん
移植ができる場合2)※1
寛解(病気の症状が落ち着いて安定した状態)導入療法骨髄腫細胞をしっかり減らす)
造血幹細胞の採取(患者さんご自身の幹細胞を取り出して保存)
造血幹細胞の移植
維持療法(再発を防ぐ)
※1 良好な治療効果を得るために、維持療法の前に「地固め療法」が選択されることがあります。
移植ができない場合2)※2
薬物療法(骨髄腫細胞を減らす)
維持療法(再発を防ぐ)
※2 必要に応じて、治療を行わず経過観察になることもあります。
患者さんご本人のみならず、患者さんご家族も、治療についてわからないことや不安なことがある場合は、遠慮なく医師や看護師、薬剤師などの医療スタッフに相談しましょう。
また、全国のがん診療連携拠点病院などには「がん相談支援センター」の窓口が設置されています。
患者さんが自分の生活や希望を伝えながら、一緒に治療を考えることが、納得できる選択につながります。
出典
1)日本骨髄腫学会 編: 多発性骨髄腫の診療指針2024 第6版. p31-33, 文光堂. 2024
2)日本血液学会 編: 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) Ⅲ骨髄腫 1.多発性骨髄腫(MM)アルゴリズム http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/3_1_1.html#algo[2025年9月8日確認]

使用される主なお薬治療法

多発性骨髄腫の治療では、複数のお薬を組み合わせて骨髄腫細胞を減らし、病気の進行を抑えることを目指します。
多発性骨髄腫の治療には、さまざまな種類のお薬が使われます。代表的なお薬には、次のようなものがあります。
主なお薬の種類 働き
免疫調節薬 骨髄腫細胞の増殖を抑える働きに加え、それを攻撃する免疫細胞の働きを助けるお薬。
プロテアソーム
阻害薬
骨髄腫細胞が増えるのに必要なタンパクが分解されるのを防ぐお薬。
タンパクを処理する役割を持つ「プロテアソーム」という酵素の働きを抑えることで、骨髄腫細胞の増殖を抑制する。
抗体薬 骨髄腫細胞の表面にある目印(抗原)に結びつき、免疫細胞を引き寄せる。
引き寄せられた免疫細胞が活性化して骨髄腫細胞を攻撃し、増殖を抑制する。
CAR-T
細胞療法
患者さんの血液から白血球を採取し、骨髄腫細胞の表面にある目印(抗原)に結びつく受容体(キメラ抗原受容体:CAR)を持たせた白血球(CAR-T細胞)をつくって増やし、点滴で患者さんの体内に戻す。
体内に戻ったCAR-T細胞が、骨髄腫細胞を見つけて攻撃し、増殖を抑制する。
二重特異性
抗体薬
骨髄腫細胞と白血球(T細胞)の表面にある目印(抗原)の両方に結びつくことで、白血球を骨髄腫細胞の近くに引き寄せる。
その結果、白血球が骨髄腫細胞を攻撃し、増殖を抑制する。
抗体薬物
複合体
骨髄腫細胞の表面にある目印(抗原)に結びついたあと、細胞の中に入り、抗がん作用のあるお薬を放出して骨髄腫細胞の増殖を抑制する。
さらに、白血球の働きを活性化し骨髄腫細胞を攻撃させる2つの作用がある。
出典
1)日本血液学会 編: 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) Ⅲ骨髄腫 1.多発性骨髄腫(MM)アルゴリズム http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/3_1_1.html#algo[2025年9月8日確認]

治療を選ぶとき考え方

どのような治療を行うかは、患者さんの年齢や持病(併存症)の有無、病気の性質、重症度(病期)や臓器の機能などの状態に応じて治療法が選択されます。
自分に合った治療を選ぶためには、患者さんの考え(「好み」や、どのようなことを大切に考えるか、優先したい事項など)や生活スタイルも大切な要素です。
医療者と「一緒に考えて決める」ために、診察時に気持ちを正確に伝えられるよう、事前にメモしておくなど、準備しておくとよいでしょう。
ご家族と治療について話し合う多発性骨髄腫患者さん

自分にとって大切なことを考えてみましょう(価値観の整理)

例えば……
できるだけ長く働きたい
家族との時間を大切にしたい
自立した生活を続けたい
「家族との時間を大切にしたいので自宅で過ごしたいのですが、そのような治療は可能ですか?」
「体力が落ちないようにしたいのですが、どんな治療を選ぶと良いでしょうか?」

治療の目的を整理しましょう

例えば……
病気を落ち着かせる「寛解」を目指す
症状を和らげて日常生活を保つ
どこまで治療を頑張るか
「私のような状態だと、
どんな治療の選択肢がありますか?」
「どんな治療薬が私に合うでしょうか?」
「痛みを和らげる治療について
相談させてください」

日常生活や仕事との両立を考えてみましょう

例えば……
通院の頻度や時間の都合
服薬のしやすさや忘れにくさ
仕事や家事への影響
「治療と仕事を両立させるには、
どの方法が良いですか?」
「病院は自宅から遠く、家族に送り迎えしてもらうことも難しいので、できるだけ通院頻度が少なくできる治療法はありますか?」

投与方法や副作用について希望を整理しましょう

例えば……
点滴・注射・飲み薬など、希望する方法があるか
避けたい治療内容があるか
以前つらかった副作用は?
「できれば飲み薬で治療したいのですが、可能ですか?」
「前回の治療で●●●の症状がつらかったです。別の選択肢はありますか?」

現在の病状を理解しておきましょう

例えば……
検査結果や再発の有無
これまでの治療歴
移植やリスク分類の話を聞いたことがあるか
「今の病気の状態はどうなっていますか?」
「私の場合、治療効果はどの検査項目の結果を見て判断するのですか?」
「私は移植の対象になりますか?」

治療費や制度についても確認
しておきましょう

例えば……
高額療養費制度の利用
生活費や仕事との兼ね合い
金銭的な支援制度の確認
「治療費がどのくらいかかるか、事前に知りたいです」
「費用のことで相談できる窓口はありますか?」
治療法は「まかせる」だけでなく、自分の気持ちや希望を伝えることで、より納得のいく選択ができます。
わからないことなどがあれば、遠慮せず医療者に相談してみましょう。
このページは、多発性骨髄腫の疾患に関する情報サイトです。医療に関する判断は、患者さんの特性を考慮し、医師と患者さんとの相談の上で行うものです。
多発性骨髄腫について、詳しくは医師にご相談ください。多発性骨髄腫に関する一般的な情報を提供するものであり、特定の治療法などを推奨するものではありません。

NP-JP-NA-WCNT-250021 2025年9月

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